溝鼠ー214咄嗟に119番だと [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

あっと勝子が声を上げ道男のところへ走り寄った。
声を掛けたが返事がない。死んだんだろか。抱き起こそうとしたが、勝子の力では起こせない。何度も声を掛けたが返事がない。
咄嗟に119番だと思った。
勝子は、よろけそうになりながら電話機の傍まで行き受話器を取った。
ダイヤルボタンをを押そうとしたが、指が震え、それにダイヤルボタンの数字が確認できない。落ち着け、落ち着けと何度も自分自身に言い聞かせながら目を大きく見開き二回深呼吸をした。
ダイヤルボタンの数字の位置がかろうじて見えてきた。
119番へ電話を入れた。
自宅の住所を訊かれたが直ぐに出てこない。
しどろもどろになりながらやっと答えることができた。
道男を見ると先ほどと同じ格好で横たわっている。声を掛けたが反応がない。
どうしようか。そうだ、道子だ。
道子の電話番号が分からない。普段ならあっさりと出てくるのに頭から出てこない。
電話台の二段目に置いてあるノートを引っ張り出して電話を入れた。
救急車が遅い。台所の窓から外を覗いてみたが、救急車が見えない。いらいらしていると遠くの方からサイレンの音が近づいてくるのが分かった。
救急車が到着した。
二人の救急隊員が道男と勝子を車に乗せてH医科大学病院へ直行した。
急患用の入り口から入り道男は直ぐに手術室へ、勝子は待合室へ通された。
長椅子に一人で座っていると看護師が書類を持ってきた。書類に記入してくださいという。
勝子は、気が動転し看護師の説明することが、よく呑み込めない。
記入の必要な場所を鉛筆で囲ってくれた。そこへ記入するよにとのことだ。
名前と年齢、それに、覚えている範囲でいいから過去の病歴を記入して下さいといわれたが病歴が分からない。
それで、道男の名前と住所と電話番号だけ記入した。
勝子は、長椅子に座っていたが落ち着かなかった。
一時間ほどして道子が来た。

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