亡魂ー26 佛坂峠で

幸一は、芳次郎にこれまでの経緯を語った。芳次郎は、信じがたいという顔で聞いていたが、時々眉を顰めたり、首を少し傾げたりしていたが、幸一が、あまりにも熱心に話をするので耳を傾け始めた。
昭三は、幸一が話をしている間、それとなく部屋を見回した。確か仏壇があるはずだがそれがない。不思議だと思いながら幸一の話を聞いていた。
幸一が一通り話を終えると茶を一口飲んだ。
「仏壇がありませんね」昭三が訊いた。
「ああ、仏壇は、未だ、引っ越して来たばかりなので、梱包したまま、そのままにしております」
「何方が、亡くなっているのですか」
「先祖代々にそれに私の家内と、私の妹とその子を祭っております」
「誰か、不運な死に方をした方がいらっしゃいますか」幸一が訊いた。
「妹の恒子が、若くして事故で亡くなっております」
「お幾つで・・・」
「39歳でした」
「ああ、それは、お気の毒なことです」
「それに、恒子の子供も一緒です」
「子供さんも一緒ですか」
「ええ、まだ生まれて間もない子で守といいます」
「どのような事故で・・・」
「自動車事故です。歌見川から元川市に来る途中、山越えしなければならないでしょ」
「佛坂峠ですか・・・」
「そうです。あそこで事故に遭い、亡くなりました」
「車は、自分で運転してのことですか」
「いや、従弟が運転しておりました」
「亡くなったのは、三名ですか」
「従弟と恒子に子供の守の3人です。二月で、その日は、天候が悪く、三日ほど猛吹雪が続き、峠は何度か通行止めになりました。当日は、久し振りに晴れ間がのぞいたので通行止めが解除されて、それで峠を越えたらしいです」
「スリップか何かで・・」
「そうです。警察では、スリップによる事故だと話していました」
「スリップですか・・・」
「そうだそうです。道路からはみだし崖下に転落していたそうです」
「それじゃ、即死ですね」
「だと思います」

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