溝鼠ー203赤いボストンバッグの中 [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

ドアを開けて入ってきた道男が怪訝な顔でいる。
「なんだ、二人して、どうした」
二人が、ほっとした顔で互いに顔を見合わせた。

「椰季子が、二階からなかなか下りてこないので、声を掛けたの」
「ああ・・・」
「帰ってくるのが、いやに早いじゃない」
「なんか、ふらふらして調子が悪いんだ」
「血圧じゃない・・・」
「そうかな」
「薬、飲んだの」
「いや・・・」
「やぱり、血圧だよ。大丈夫かい・・・」
「分かんねえ」
道男が、居間に入った。
サイドボードの上にある血圧計を取って測っている。
その様子を勝子が見ている。
椰季子が、勝子の後ろに立ちキッチンテーブルの傍でピーナッツを摘まんで食べている。
「180だ・・・」
「大丈夫・・・」
勝子が心配そうにいった。
「薬を飲んだら下がるだろう」
勝子が台所へ走りコップに水を入れて持ってきた。道男は、サイドボードの上に置いた薬袋を取って中から薬をだした。
薬を飲んで気持ちが楽になったのか、道男が、いつのもようにソフアーに横になり目を瞑った。
椰季子が、二階へ上がり佳代子の部屋に入った。
先ほど勝子の声に驚き無我夢中で咄嗟に入れた赤いボストンバッグの中を開けてみた。新聞紙で包んだ200万円が確かに入っている。
200万円が思わぬところから手に入った。この金で渉を東京へ帰さなければと思った。
ふと、新聞紙で包まれた200万円が気になった。

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溝鼠-202チャイムが鳴った [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

「そしたらさ、200万円を貸してやるから。このことは、お父さんには内緒だよ。残った100万円は、婆ちゃんの部屋にシンクがあるからさ、そこの収納キャビネットの中へ入れてきて」
今度は、椰季子が驚いた。
「いいのかい・・・」
椰季子が、飛び上がらんばかりに喜んだ。
「良いも悪いも。仕方がないっしょ」
椰季子が、肩を窄めて、勝子に手を合わせ、テーブルの上のポリ袋に入った200万円と100万円をそれぞれ新聞紙で包んだ。
「早くそれを二階へ置いてきなさい」
椰季子が、飛び出すようにして部屋を出て行った。
その時、ガレージの開く音が勝子の耳に入った。
勝子が慌てて階段下へ行き二階へ声をかけた。
「お父さんが帰ってきたよ。早く降りてきなさい」
いつもより帰って来るのが早い。
椰季子が降りてくるのが遅い。
「早くしなさい」
大きな声で叫んだ。
椰季子がドアから首を出した。
「早く早く」
椰季子がパタパタとスリッパの音を立てながら降りてきた。
チャイムが鳴った。

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溝鼠ー201 テーブルの上にある200万円を [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

「ついて来たって、犬ころじゃあるまいし。今どこにいるのさ」
「ホテル」
「何処のホテルさ・・・」
「駅前のビジネスホテル」
「ホテルに置いたままで、よくで平気でいられるね」
勝子が椰季子の顔を繁々と見詰めている。
「だって、お金がないんだもの」
まるで他人事のようだ。
少し間をおいてから、勝子が徐にいった。
「お金がないっていうけどさ、あんたが貸してやったらどうなのさ」
「私もないの」
驚いたのか勝子が、茶菓子鉢へ伸ばした手を引っ込めた。
「あんたもないのかい」
椰季子が頷いた。
「だから、このお金貸してほしいの。婆ちゃんのお金でしょ。婆ちゃんの月々の支払なんって微々たるもんでしょ」
「そんなこと知らないよ。入ったばかりなんだから」
「頼むから。貸して。必ず返すから」
椰季子が、テーブルに額をつけるようにして頭を下げている。
「お父さんに相談してみたらどうなのさ」
「良いって言うわけないしょ」
「あんたさ、このお金なかったらどうするつもりだったのさ」
「お父さんに頼むつもりだったよ」
勝子が呆れたのか何もいわなくなった。

テーブルの上に置いた茶菓子鉢から殻付きピーナッツを一個摘み、それを口へ持って行き前歯で力一杯噛んだ。
「ぼりっ」と鈍い音が鳴った。
殻ごと中の豆まで粉々に潰れた。
勝子が、そのピーナッツを口から吐き出した。
椰季子が、茶菓子鉢に手を突っ込み二三個取り出し一個を口に入れ上手に殻を割って美味しそうに食べている。
勝子が、椅子から立ち上がり台所へ行きポリ袋を二枚持ってきた。
テーブルの上にある200万円を一枚のポロ袋に入れ、もう一枚の袋に100万円を入れた。
それを椰季子の目の前に置いた。

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溝鼠ー200 佳代子のお金なの [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

圧し潰された箱の口から、少し飛び出して一万円札が見える。
「お金でしょ。何処にあったのさ」
「鏡台の引き出しの中に押し込めるようにして入ってたよ・・・」
「幾ら入っているのさ」
「知らないけどさ。驚いちゃった」
勝子が、潰れたテッシュの箱を補修し中からしわくちゃになった一万円札を取り出しってテーブルの上に並べた。
人差し指と親指を舐めながら札を数え始めた。
この金は、道男が探していた金だ。その金が佳代子の部屋から出てきた。
道男に言う訳にはいかない。どうしようか。咄嗟に思いついた。
そうだ、椰季子が、モトの部屋から見つけたことにしよう。
「300万あるよ」
「佳代子のお金なの・・・」
「あの子が持っているわけないしょ」
「それじゃ、このお金は・・・」
「婆ちゃんのお金さ」
それを聞いた椰季子が突然大きな声を出した。
「お願い、私に貸して」
勝子が皺になった札を手の平で伸ばしていたが、あまりにも大きな声に驚き手を止めた。
「どうするのさ」
椰季子が少し困った様子だったが
「彼が来てるの」
「彼って・・・。あんたのかい」
椰季子が頷いた。
勝子が、唖然としている。
「実は、一緒に来たの。駄目だっていったんだけどさ・・・勝手についてきたの」

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