亡魂ー19口元が少し緩んだ

女は小首を傾げながら
「その辺は、婆ちゃんに訊いてみなければ、何とも言えません」
といった。
「そうですよね・・・」
幸一も当然だと思った。
「どちらからいらっしゃったのですか」
「隣の元川市からきました」
「ああ・・・、隣町ですか。近いですね」
「ええ、バスで16分ですから」
女の顔が和らぎ少し明るくなったようだ。
「こちらに連絡を取るには・・・」
「電話番号ですか。少しお待ちください」
女は、そういって奥へ入っていった。少ししてから、右手に紙切れを持って出てきた。そして、その紙切れを幸一に手渡した。
「助かります。明日にでも、こちらにお電話を入れますので、その旨、お帰りになったらヨネさんにお伝えください。もし、ご不在でしたら、私は、時々こちらへ来ることが、ありますので、その時は、寄らせて頂きます。それじゃ、今日は、これで失礼します」
「婆ちゃんが帰ってきたら、話しておきます」
女は、丁寧に頭を下げた。
「ああ、それから、ヨネさんは、いつも朝は何時ごろ起きられますか」
「そうですね。10時過ぎぐらいかしら・・・」
「そうですか、それじゃ、明日は、その時分に電話を入れますのでよろしくお願いします」
そういって二人は長谷川の家を出た。
歩きながら幸一が久米島にいった。
「引き受けてくれるだろうか・・・」
幸一は、心配そうな顔をしながら久米島にいった。
「病院へ通っているじゃないですか、大丈夫ですよ。必ず引き受けてくれますよ」
久米島が自信ありげにいった。
「そうかね・・・」
その言葉を聞いて少し安心したのか、幸一の口元が少し緩んだ。
二人が元川市に戻ったのは、昼過ぎだった。
翌日、早速、午前10時ごろになってから、幸一は、長谷川ヨネに電話を入れた。

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亡魂ー18 三味線の音が

ここに間違いないだろうと思い、久米島は、引き違い戸を静かに開けた。
「御免下さい・・・」
返事がない。奥の方から三味線の音が聞こえる。黒田節だろうか、三味線の音が心地良い。
「御免ください・・・どなたかおりませんか」
三味線の音が止まり、奥から「は~い」といって女の声がした。
玄関口に出てきたのは、年の頃35.6才といったところで、和服を着ていた。
「何か・・・」
「長谷川ヨネさんは、ご在宅ですか」
「婆ちゃんですか、生憎、今、出掛けております」
「ヨネさんに御願いがありまして伺ったのですが」
女は、ヨネと聞いて察したのか
「ああ・・・」と女は云い少し困ったような顔をした。
「どんなご用件ですか」
「除霊して欲しいのですが」幸一が訊いた。
「そうですか。でも出来るだろうか・・・、齢のせいか、先日転んで足を痛めたものですから、それで今日も病院へ行きましたの」
「病院ですか・・・」
「ええ、なにせ歩くのが大変なものですから」
「・・・」
幸一と久米島は、顔を見合わせた。
「無理かな・・・」
女は、申し訳なさそうな顔をした。

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亡魂ー17表札を見ると

幸一が上元川町から戻ったのは、太陽が沈み始めた頃だった。早速、久米島は、木島透氏との話を報告した。
「住所が分かったので、まず行ってみるか」
幸一は、朝方と違って、少し明るい表情になった。
久米島が頷いた。
「僕も一緒に行きましょうか。久し振りに友達にも会いたいので」
幸一は頷いた。
「それじゃ、早速、明日にでも行ってみよう」
翌日、幸一は、バイクで行き、久米島は、バスで行くことにした。所要時間は16分ほどで行く。先に久米島が行き、上元川町の警察署で待ち合わせることにした。
幸一が到着したのは、10時半ごろだった。
警察で住所を聞いて二人は、タクシーで出掛けた。
炭住街である。同じ平屋で棟続きの住宅がずらっと並んでいる。
住所を書いた紙を頼りに歩いた。どこが目的の場所か迷う。
家屋番号を頼りに探した。

それらしき家をやっと見つけた。
玄関前に立って、表札を見ると長谷川重蔵となっている。
軒下からてるてる坊主が一個ぶら下がっている。硬式野球ボールほどの大きさで、それが雨風に晒され目や鼻が消えかかり、全体が茶色に変色している。相当以前からぶら下がっているようだ。それに、てるてる坊主の頭の下が切れ掛かっている。

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亡魂ー16 齢は81歳で

「居場所を知っているかい」
「友人が隣町の上元町にいるんですが、そいつから聞いた話なんです。居場所までは、どうかわかりません」
「探す方法は、あるかい・・・」
「友達の実家が、寺ですから、それで、その親父さんに訊いて貰いますか。何か分かるかもしれません」
「ああ、そうしてくれたら、有難いよ」
早速、久米島は、手帳を開き友人の電話番号を確認していたが、
「電話番号が、わかりましたので、連絡を取ってみます」
久米島は、受話器を取ってダイヤルを回した。
なかなか、電話が繋がらない。久米島が、ちょっと首を傾げながら受話器を置いた。
「繋がらないので、後からもう一度、電話をしてみます」
「急がなくてもいいから、あとからでも連絡をとってみてよ」
幸一は、電話を待っているわけにもいかない。隣町の上元川町で町主催の中小学生各町内会対抗野球大会が開催される。その取材に出掛けなければならない。幸一は、バイクに乗って出掛けていった。
久米島も警察へ行くといって出かけた。
久米島は、昼近くに戻ってきた。早速、先ほどの友人に電話を入れた。
今度は、繋がったようだ。
友人の名前は、木島透といって、上元川町の役場の経済部振興課に席を置いていた。
それによると、老婆は、齢は81歳で長谷川ヨネといった。
現在も健在で、頼まれるとノコノコ出て行って除霊などをしているという。
住所と電話番号を聞いたが、電話番号までは、分からないという。住所だけが分かった。

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