亡魂ー15 霊媒師に祈祷

幸一は、朝から気持ちが晴れなかった。
「久米島君、どうもこの家には、霊が取りついているようなのんだ」
出社してきた久米島が、きょとんとした顔で幸三の顔を見た。
「この間から不思議な現象が起きていてね」
「どんな現象ですか」
「この間、二日間ほど、ここに泊まったが、夜中に音がするんだ」
「どんな音ですか・・・」
「俺は、パタパタと歩きまわる音だが、澄子は、カタカタという音でね、それぞれ違った音を聞いているんだ。それで、家の周りなど見て回ったんだが異常がないのだよ。どう考えても分からない。それで、どうもこの世の音ではなくて霊魂じゃないかと思うんだよ」
久米島が、にや、にや笑いながら、
「よく調べたのですか」
思いもよらないといった様子だ。
「しかし、今どき霊魂だ。幽霊だなって誰も信じませんよ」
「信じるか、信じないかの問題じゃないのだ」
「何か証拠があるなら信じる人もいるでしょうが」
「確かな証拠を掴んだよ」
「どんな証拠ですか」
久米島は、目を輝かせ上半身を少し前にだした。
「この間、川村さんに押入れの中へ入って、音を聞いて貰おうとしたのだが、入って間もなく眠気がさして明け方まで爆睡したんだ。それも二晩もだよ。それに、今朝のことだが、重ねて置いたスリッパがハノ字型に開いて置いてあったのだ」
「本当ですか・・・」
久米島は、首を捻った。
「それじゃ、ここには、もう、住めないじゃないですか」
「いやね、それで困っているのだよ」
久米島も困った様子だ。
「警察に頼んで調べてもらったらどうですか」
「いや、警察の出る問題じゃないよ。別に人に危害を加えたわけじゃないし」
「それもそうですね…じゃ、事務所をどこか違うところへ移すほかないじゃないですか」
「それで、何かいい考えがないものかと思ってね」
「ほんとに霊が居ついているなら、霊媒師に祈祷してもらったどうです」
「霊媒師か、・・・どこに居るの」
「隣町にいるそうです。老婆ですが」
[新月]16

nice!(0)  コメント(0) 

亡魂ー14 口をへの字に曲げて

「どうでしたか・・・」
昭三は、幸一の顔を見るなり、申し訳なさそうな顔をして背を丸めながら造り笑いをしている。
「昨夜も駄目でした。兎に角、目を開けていられなくて、気が付いたら明け方でした。申し訳ないです。しかし、普段は、こんなに眠たくなることなんってないんですけどね」
昭三は、何度も頭を下げた。
微笑みをたたえながら幸一が、
「もしかしたら、何かの霊かも・・・」そう言って笑った。
「そうかもしれないですね。兎に角、猛烈に眠たくなるんですよ。まるで、睡眠薬を飲まされた様ですよ」
昭三は、真面目な顔でいった。

キネが、ニヤニヤ笑いながら台所からでてきていった。
「気持ちの悪いこといわないでよ。近所に広まったら大変よ」
キネが、昭一を咎めた。
「冗談だ・・・」
しかし、どうも何か引っかかる。川村昭三は二晩とも爆睡した。
それに、自分も澄子も得体の知れない音を聞いている。二度も聞いている。
幸一は、昭三に霊かも知れないといったが、もしかしたら、当たっているかもしれない。そう思った。
翌日、幸一は、スリッパを台所に置いてみようと思った。普通のスリッパを重ねて台所にあるテーブルの前にポンと重ねて置いた。
翌朝、早めに起きて行って見ると重ねた筈のスリパがハの字型に開いて置いてあった。
「ん・・・」
幸一は、一瞬背筋が寒くなった。間違いなく重ねて置いた。それがハの字型に開いている。
誰がこのように開いたのであろうか。考えたが人の入った気配がない。最後に事務所を出るときに鍵をかけたのは自分である。
「これは、やはり、霊か。それも女の霊だ・・・スリッパがハの字型だ」
幸一は、腕を組み、口をへの字に曲げて、しばし、その場に立ち尽くしていた。
[新月]15




nice!(0)  コメント(0) 

亡魂-13 耳を壁に力一杯

家の周りに置いた道具類や資材は、既に片づけた。兎に角、音の出どこを確かめなければならない。
押入れの襖は、閉じてある。8月の初旬だ。
二時間ほど経ったであろうか、押入れの中が蒸し暑くなってきた。昭三は、風を入れるために襖を少し開けた。襖の隙間から、妻の幸枝に息子の進、娘の美津子に紀子が、頭を並べて寝ている。
暫くして、何か音がしたようだ。音の正体を見極めようとして、耳を壁に力一杯当てた。
ゴーとう音がする。車のエンジン音か。耳をすましその姿勢でじっと待った。
急に瞼が垂れた。今晩は、眠れない。
一心になって瞼を開けようとした。瞼が開かない。なぜか睡魔が容赦なく襲ってくる。首を左右に動かそうとしたが全く動かない。自然と壁から耳が離れた。首を項垂れ体が前傾姿勢になった。その格好で、昭三は、明け方まで眠り続けた。
気が付いた時は、朝の3時頃だった。出勤してきた新聞配達員の声で目を覚ました。
動こうとしたら、体が痛む。それに首も痛い。不自然な姿で眠ったからだろう。首を静かに持ち上げ少しの間そのままの姿勢でいた。
咄嗟に、駅まで新聞を取りに行かなければと思った。襖をあけて押入れから飛び出した。
ライトバンに飛び乗り駅へ行き、朝刊の束を受け取って戻ってきた。新聞配達員は、手持ちぶさたに新聞が来るのを待っていた。
それからは、いつもの生活に戻った。
昭三は、配達から戻ってきて、いつものように飯台の前に座り朝飯を口に掻き込んでいた。
そこへ幸一が顔を出した。

nice!(0)  コメント(0) 

亡魂ー12地震でもない

幸一は、いつもより早めに目を覚ました。昨夜のことが気なって、布団から出ると真っ先に川村昭三に会いに行った。
昭三は、飯台の前にどっかと腰を下ろし、背を丸めながらせかせかと朝飯喰っている。
幸一に気が付き、ペコリと頭を下げた。
「昨夜は、どうでした・・・」
「いや、申し訳ないです・・・。すっかり眠ってしまって失敗でした」
決まりが悪いのか、申し訳なさそうに少し首をすくめていった。
「そうですか・・・」
「今夜も挑戦してみます・・・。恐らく、今夜は、大丈夫でしょ」
昭三は、そういいながら飯を口に掻き込んだ。
幸一は、笑みを作りながら小さく頷いた。
その夜のことである。いつものように家族が寝静まったころ、昭三は、そっと押入れの中へ入った。午後の10時を廻っていた。
昨夜と同じように茶箱に背を持たせ足を抱えて体制を整えた。壁に耳を付けた。ただ、(し~)という音が聴こえるだけだ。
幸一のいったことを思い出した。自分だけでなく子供の澄江も音を聞いたと。
(カタ、カタ)と鳴ったという。風の音だろうか、いや違うようだ。ここ最近、強い風が吹いた様子はない。なんだろうか。地震でもない。夜中に走る貨物列車か。それにしても、ここからは、少し距離がある。
自然に物と物がぶつかりあって鳴った音か。そんなことはあり得ない。

音のでる物は、何もないはずだ。

nice!(0)  コメント(0) 

亡魂ー

幸一は、いつもより早めに目を覚ました。昨夜のことが気なって、布団から出ると真っ先に川村昭三に会いに行った。
昭三は、飯台の前にどっかと腰を下ろし、背を丸めながらせかせかと朝飯喰っている。
幸一に気が付き、ペコリと頭を下げた。
「昨夜は、どうでした・・・」
「いや、申し訳ないです・・・。すっかり眠ってしまって失敗でした」
決まりが悪いのか、申し訳なさそうに少し首をすくめていった。
「そうですか・・・」
「今夜も挑戦してみます・・・。恐らく、今夜は、大丈夫でしょ」
昭三は、そういいながら飯を口に掻き込んだ。
幸一は、笑みを作りながら小さく頷いた。
その夜のことである。いつものように家族が寝静まったころ、昭三は、そっと押入れの中へ入った。午後の10時を廻っていた。
昨夜と同じように茶箱に背を持たせ足を抱えて体制を整えた。壁に耳を付けた。ただ、(し~)という音が聴こえるだけだ。
幸一のいったことを思い出した。自分だけでなく子供の澄江も音を聞いたと。
(カタ、カタ)と鳴ったという。風の音だろうか、いや違うようだ。ここ最近、強い風が吹いた様子はない。なんだろうか。地震でもない。夜中に走る貨物列車か。それにしても、ここからは、少し距離がある。
自然に物と物がぶつかりあって鳴った音か。そんなことはあり得ない。

音のでる物は、何もないはずだ。

nice!(0)  コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。