亡魂ー14 口をへの字に曲げて

「どうでしたか・・・」
昭三は、幸一の顔を見るなり、申し訳なさそうな顔をして背を丸めながら造り笑いをしている。
「昨夜も駄目でした。兎に角、目を開けていられなくて、気が付いたら明け方でした。申し訳ないです。しかし、普段は、こんなに眠たくなることなんってないんですけどね」
昭三は、何度も頭を下げた。
微笑みをたたえながら幸一が、
「もしかしたら、何かの霊かも・・・」そう言って笑った。
「そうかもしれないですね。兎に角、猛烈に眠たくなるんですよ。まるで、睡眠薬を飲まされた様ですよ」
昭三は、真面目な顔でいった。

キネが、ニヤニヤ笑いながら台所からでてきていった。
「気持ちの悪いこといわないでよ。近所に広まったら大変よ」
キネが、昭一を咎めた。
「冗談だ・・・」
しかし、どうも何か引っかかる。川村昭三は二晩とも爆睡した。
それに、自分も澄子も得体の知れない音を聞いている。二度も聞いている。
幸一は、昭三に霊かも知れないといったが、もしかしたら、当たっているかもしれない。そう思った。
翌日、幸一は、スリッパを台所に置いてみようと思った。普通のスリッパを重ねて台所にあるテーブルの前にポンと重ねて置いた。
翌朝、早めに起きて行って見ると重ねた筈のスリパがハの字型に開いて置いてあった。
「ん・・・」
幸一は、一瞬背筋が寒くなった。間違いなく重ねて置いた。それがハの字型に開いている。
誰がこのように開いたのであろうか。考えたが人の入った気配がない。最後に事務所を出るときに鍵をかけたのは自分である。
「これは、やはり、霊か。それも女の霊だ・・・スリッパがハの字型だ」
幸一は、腕を組み、口をへの字に曲げて、しばし、その場に立ち尽くしていた。
[新月]15




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