亡魂―7睡魔が

翌晩、澄子は、泊まらないというので、幸三と二人で寝た。
午後の十一時ごろだろうか。
「カタカタ」と音がした。今度は、幸一の耳にはっきりと聞こえた。
「はっと」として目を開けた。
耳を研ぎ澄ました。道路を走る車の音がしない。
「カタカタ」と音がした。
これは、一体どういうことなのか。幸一は布団の中で微動だにしないで次を待った。
一度なると暫く音がしない。
「カタカタ」とまた、音がした。
「カタカタ」と鳴る時間の間隔は不規則だ。
幸一は、そっと、横で寝ている幸三に目を遣った。
静かに眠っている。
澄子がいったように、「カタカタ」と音がした。
これは、何の音だろうか。起き上がろうとしたが、体が全く動かない。
神経は研ぎ澄まされ頭は、冴えわたっている。それなのに、体が、ゆうことを利かない。まるで、金縛りにあったようだ。
仕方がないので、目を閉じて耳に全神経を集中させた。
「カタカタ」と何かが小刻み鳴っている。
幸三は、何が鳴っているのか、家中のものを頭の中で思い浮かべみた。
あれだろうか、これだろうかと思い浮かべているうちに、突然、睡魔が襲ってきた。

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亡魂ー6カタカタと

翌朝、澄子が、幸一の所へ来て、今晩は一緒に寝ないという。どうしてかと訊くと、音がするからだという。
「どんな音がしたんだ」と訊くと
「カタカタした」という。
「カタカタ・・・そう聴こえたのか」
澄子が頷いた。何となく不安気な顔をしている。
「カタカタか・・・」
幸一は、音がして目を覚ましたが、どんな音だったか、はっきりと覚えていない。
「カタカタか・・・」
澄子が小さく頷いた。
「道路を走る車の振動で家が揺れたんじゃないか。きっと、その音だ」
澄子が、納得しがたいのか、うつむきながら首を左右に振った。
「それじゃ、何の音だ」
「分からない」
澄子は、そういって、走って玄関から飛び出していった。
幸一は、澄子に何度もいわれて、何となくそのような音を聞いたような気がした。
確か、「カタカタ」と小さく小刻みに鳴っていたような気がする。
幸一は、昨夜のことを一心になって思い出そうとした。

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亡魂ー5 何か音が

改築工事は、順調に進み3か月ほどで、ほとんどが仕上がった。
建物は、正面の玄関を挟んで左側に事務所があり、右側は、台所になっていた。
一間四方の玄関に入ると、上がり框があり、その上に引き違い戸が入っていた。それを開けると、六畳間があり、そのまた奥も六畳間となっていた。
事務所は、四畳半ほどある。そこへ、事務机を二台置き、それに電話が一本引いてあった。事務所と居間は、ガラスの入った引き違い戸で仕切られ、自由に行き来ができるようになっていた。
便所は、居間を通って、次の六畳間の左側に狭い廊下があり、その突き当たりにあった。
台所からは、国道が目の前に見え、その向こう側には、商店が見えた。
建物の左側には、窓が多く、明かりが十分に取れるようになっていた。
幸三と澄子の二人の子供たちは、間借り生活だと何かと不便なことが多く飽きたのか、早く新居へ移りたいと言い出し、とうとう、二人の子供にせがまれて、ある日、泊まることにした。
妻のキネは、出来上がってから、引っ越しすることにした。
それで、幸一と子供二人が泊まることになった。
二日目のことだった。幸一も子供の二人も眠りに入ったころだった。
何か物音がした。
幸一が、「はっ」と気が付き目を開けた。なにも聴こえない。
玄関先が道路沿いにあり、車の往来する音だろうと思った。ところが、澄子が目を覚まし、幸一を揺すり「何か、音がする」という。
「気のせいだと」と一旦子供をなだめたが、どうも幸一も気になった。
幸一は、暫く寝付けなかったが、明け方になって少し眠った。

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亡魂ー4 5尺2寸ほどの小柄な男

キネの夫、幸一は、新聞記者だった。転勤でH新聞道南支社からの移動だった。
そのころ、未だこの町には支局がなく、それで新聞販売店の一室を借りての間借り生活となった。

幸一は、仕事をしながら、事務所と住宅を併設した物件を探したが、なかなか見つからず、探しあぐねていたら、新聞販売店の店主が、棟続きの隣の建物は、自分の物なので、そこを改築するから、入居しないかといってきた。隣には、他人が住んでいる。現在入居している人に家を明け渡してもらわなければならない。
一か月ほどして燐家から、そういうことなら致し方がないので出て行くと言って来た。
この町に来て、丁度3か月目のことだった。
新聞販売店の店主である川村昭三は、五尺二寸ほどの小柄な男だが、体がよく動く人で、大工気があるという。それで、燐家は、自分一人で改築するので、入居は、半年ほど待ってくれと言ってきた。
幸一は、知らない街に来て、伝手もなく、そう簡単に事務所を併設した住宅など見つかるはずもないと思い。川村昭三に任せることにした。

燐家が出て行った翌日から川村昭三は、新聞の配達が終わると、頭に日本手ぬぐいを巻き右の耳に鉛筆を挟み内装工事に取り掛かった。壁を剥がしたり、床を剥がしたりと、こまめに動き回っている。時々、床下にもぐり込み、ごそごそと何やらやっている。暫くしてから床下から顔を出し、目の前にある角材を引き寄せ、床下に下し引き摺りながら建物の端の方へ潜り込んで行く。

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