亡魂ー37頬がこけ、目が窪み

幸一は、久米島に任せておくのも気の毒になった。自ら長谷川ヨネを一度訪ねて、浄霊した時のあの苦悶の表情について尋ねてみようと思っていた。あれから一か月を過ぎた頃、幸一は、上元川へ取材に行かなければならなくなった。地元での取材が終わり、その足で長谷川ヨネの家を訪ねた。

家の前に立つと、一か月前と違っていたのは、テルテル坊主が、新しくなっていたことだった。大きさは、前のと同じだが、真新しい真っ白な布きれで作られてあった。
引き違い戸を静かに開けた。
「御免ください」と二度ほど声を掛けると、あの女が出てきた。
幸一の顔を見るなり
「あら、お差ぶりです。今日は何か・・・」と少し怪訝そうな顔をしながらいった。
「いえちょっと・・・今日は取材でこの町へ:きたものですから、先日のお礼にと、寄らせて頂きました」
「そうですか、婆ちゃんは、今日、居りますよ」
「そうですか、ちょっと尋ねたいことがありまして・・・」
「ああ、いいと思いますよ。ちょっと待ってください」
女はそう言って奥へ引っ込んだ。少しすると女が出て来て
「どうぞ、お上がり下さい」
そういって、幸一の足元へスリッパを置いた。
古い家なのか、歩くと廊下が少し軋む。通されたところは、居間である。ヨネが、夏場だというのに炬燵に入っていた。
「先日は、有難うございました。お元気そうで・・・」
幸一が、炬燵の前に座り笑顔で挨拶をすると、ヨネが炬燵から出て座り直して、頭を下げた。
「今日は、どのようなご用件で・・・」
ヨネも笑顔で答えた。先日のヨネの態度とは違っていた。
「取材がてらに、ちょっと寄らせて貰いました」
長谷川ヨネは、前より少し肩が落ち、頬がこけ、目が窪み、そのためか、目が大きくなり、その目をぎょろつかせながら幸一をみた。顔には、皺が多くなり、それに、体全体が小さくなったように思えた。

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