亡魂ー27真面目一辺倒だった男が

芳次郎は、眉を顰め頷きながら
「恒子にとって守は、初めての子供で、それは大変な可愛がりようでした。傍から見ていて、思わずこちらも自然と微笑みがこぼれ幸せな気持ちにさせられました」
「よっぽど、可愛かったのでしょうね。それじゃ、旦那さんも、さぞかし、悔しかったでしょうね」
「ええ、恒子が亡くなってから、真面目一辺倒だった男が、まるで別人になったかのように、毎晩のように歓楽街へ出掛け、酒浸りになって明け方近くに帰ってくるという乱れた生活を繰り返しておりました。辺りのものは、慰めようがなく、ただなすが儘にしておりました」
「気の毒なことです。その恒子さんが、霊となって表れたのでしょうね」
幸一が芳次郎の顔を覗き込むようにしていった。
「そうかもしれません。恒子も悔しかったのでしょう」
「パタパタという音は、恒子さんだと思いますが、カタカタは、子供さんかもしれませんね。何歳でしたか」
「丁度、満一歳になろうとしていました」
「それじゃ、伝い歩きが出来るころですね」
「ああ、そうでしょうね」
「それじゃ、カタカタはその子供さんが、立ち上がり襖か障子に掴まり揺らしていた音でしょうか」
「はっきりしたことは分かりませんが、そう言えるかもしれません」
「ただ、仏さんが、非常に悔しい思いをしておりましたので、何か他に原因があるのではないかと思いまして・・・」
「何せ39歳という若さで亡くなりましたので、よっぽど悔しかったのだと思います」
幸一は芳次郎の話を食い入るように聞いていた。
「事故だったから、新聞報道されたでしょう」
「ええ、隅の方に小さく載っておりました」
「何年頃のことですか」

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