亡魂ー32国井芳次郎は、頷いた

久米島は、ポケットからハンカチを取り出して顔を拭った。簡単に挨拶をしてから、本題に入った。久米島は、新聞の切り抜きを出して、読み上げた。
「新聞報道によると、去る二月二六日午後三時頃、歌見川町から元川市に入る仏坂峠で崖下に、車が転落炎上し運転手のほか同乗していた二人が死亡
事故現場からは、車の残骸と三人の焼死体が発見された。原因は、猛吹雪で視界不良による運転ミスか、現在、調査中。と、このように新聞には、報道されているのですが、その後、調査は実施されたのでしょうか、実施されたなら、その結果は、どうなったのでしょうか」
「再調査は、実施されました。事故が起きた日から二日後、天候が回復しまして、再調査が実施されました。しかし、雪が深いため、思うように調べられず、その時は、これといった目新しいことは、何も発見されませんでした。それで雪が融けた4月の中旬に、再度、調査したらしいです。しかし、何も新しい発見は、なかったそうです」
久米島は、国井芳次郎の顔をじっと見据えながら聞いていた。
「やはり、猛吹雪で視界不良になり、それでハンドル操作を誤り崖下へ落ちたのでしょうかね」
「そうだと思います。何せその日は、典型的な北海道の冬型の天気でして、大陸からくる乾いた空気が入って大雪を降らせたそうです」
「運転していた方は、お幾つですか・・・」
「大学の二年ですから、二十歳ですか」
「免許は、いつ頃、取ったのでしょうか」
「高校を卒業して間もなくといっていました」
「それじゃ、まだ、日が浅いですね」
国井芳次郎が、頷いた。
「予報では、当日、天気が荒れるということを、発表していなかったのでしょうか」
「予報は、出ていました。しかし、いつもの程度だろうと、軽く判断したのでは、ないでしょうか」
「なぜ、無理して峠越えをしたのでしょうか。途中から戻ってこられたのじゃないですか」
「あの峠は、難しい峠でして、こちらから行くときは、晴れているのです。しかし、峠を越えて、一箪向こう側に入ったら天候が急変し吹雪いている時があるのです」
「向こう側の状況を知る方法はないのですか」

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亡魂ー31 剣のある言い方

翌日、久米島は、早速、調査に取り掛かろうと思ったが、どこから手を付けてよいものか分からなかった。直接、警察へ行って調べるか、それとも、国川芳次郎の家を訪ねて、もう少し話を訊いてからにした方がいいものか迷った。
支局長は、既に歌見川町へ取材に出掛けた。
暫くの間、窓から国道を走る車を漠然と眺めていた。
そう、難しく考えることないだろう。取っ掛かりやすいところから、始めようと思った。
その結果、やはり、直接、国川芳次郎から話を聞き、そのうえで、警察へ行き調べてみようと思った。
早速、久米島は、国川芳次郎の家を訪ねた。女が出てきた。
怪訝な顔をしながら
「何でしょうか・・・」
少し剣のある言い方である。
「突然ですが、国川芳次郎さんは、いらっしゃいますか。私、こういうものです」
久米島は、そういって名刺を差し出した。女の顔が、ぱっと明るくなった。
「ああ、ちょっと待ってください」女の声が、突然変わった。
女は奥へ引っ込み、少ししてから、また出てきた。
「あの、どんなご用件でいらっしゃったのかとのことですが」
女の態度が、先ほどと違いがらりと変わっている。
「ああ、実は、昨日、うちの支局長の工藤がこちらに伺ったはずですが、その件で、もう少しお聞きしたことがあるのですが」
「ああ、そうですか、少しお待ちください」
そういって、また奥へ引っ込んだ。
家の中がひっそりとしている。物音ひとつしない。国道の裏側だ。少しは、車の音が聞こえて来てもよさそうなものだが、それがない。
廊下をパタパタと音を立てながら足早にこちらへやってくる音がした。
先ほどの女である。
「お上がり下さいとのことです」
久米島は、案内されるがままに女についていった。
この家の外観は、新築したばかりのように見えたが、中は少し古めかしく、壁や板の間の処処に傷がついていた。
案内されたところは、四畳半だった。昨日、支局長が話していた場所だと久米島は思った。

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亡魂ー30 視界不良による

「去る二月二六日午後三時頃、歌見川町から元川市に入る仏坂峠で崖下に、車が転落炎上し運転手のほか同乗していた二人が死亡
事故現場からは、車の残骸と三人の焼死体が発見された。原因は、猛吹雪で視界不良による運転ミスか、現在、調査中」と記載されていた。
久米島は、首を傾げながら、
「調査中か・・・」と久米島は呟いた。
午後の4時半ごろ、取材に出掛けた支局長が歌見川町から戻ってきた。
幸一は、久米島の顔をみるなり
「スクラップがあったかい・・・」と声を掛けた。
原稿を書いていた久米島が、目の前に置いてあるスクラップブックを手に取り幸一に渡した。
「おお、あったかい」
幸一は、よほど嬉しかったのか、微笑みを湛えながら、スクラップブックを受け取り、スクラップブックに挟んである付箋の個所を開いた。
幸一が、新聞の切り抜きに目を通していたが、読み終わると
「久米島君、この時点では、原因がはっきりしていないんだね」
「そうですね・・・」
「調査中となっているよね。その後、どうなったのだろうか・・・それに自動車って、そんなに簡単に炎上するものかね・・・」
久米島が首を傾げた。
「良くわかりませんが・・・」
「調査後については、その後の新聞に載っていないのかい」
「いや、そこまで調べていません。調べてみますか」
「うん、そうだね」
乗りかかった船だ。調べてみようと久米島は思った。

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亡魂-29 首を傾げながら

スクラップブックは、保存してあるはずだから調べて、明日にでも電話を入れるといってくれた。
翌日、工藤から電話があった。今日、元川市の警察へ行くから、その時にスクラップブックを持参して行くといってくれた。
その日、久米島が元川警察へ行くと既に工藤が来ていた。
「いや」
ソフアーに座って煙草を燻らせながら笑顔で、久米島に右手を振っている。
工藤は、でっぷりと太った人で年の頃40といったところだ。四角い顔に黒縁の眼鏡を掛け、ちょぼ髭を生やしている。
久米島も微笑みながら近づき工藤の前に腰を下ろした。胸のポケットから煙草を一本取りだして火を点けた。
「古い切り抜きを今頃どうするんだよ」
久米島は、たばこを燻らせながら、今までの概略を話した。
工藤は、頷きながら聞いていたが、話の途中で、突然、顔の前に腕を伸ばし右手を広げて話を遮った。あまりにも突飛な話に、あっけにとられたらしい。
「ちょっと待ってくれ。ほんとの話かよ」
工藤が、呆れ顔でいった。
「それが、信じられない話だけれど、本当だよ。俺も最初は、信じられなかったが、だんだんそれらしき事実が生まれてくるものだから、それで調べてみようと思ったんだよ」
工藤は、それでも信じられないのか、首を傾げなら
「まあ、一応、その時のスクラップブックを持ってきたので探してみたら」そう言ってスクラップブックを久米島に手渡した。
「助かります。警察でも分かると思ったんだが、何せ警察は忙しいところだから・・・」
「いいんだよ」
工藤は、快くスクラップブックを貸してくれた。
支局へ戻って久米島は借りたスクラップブックを開いた。
平成15年の2月の切り抜きを丁寧に見て行った。
なかなか見つからない。確か小さく載っていたといっていた筈だ。工藤は、二度目にやっと見つけることができた。

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