亡魂ー21始めます

そして、六畳間二間続きの和室を舐めるように見ていた。
少して、落ち着いた低い声で「この部屋は寒い」といった。8月である。幸一も昭三も寒いとは思わなかった。エゾキスゲが咲きやっと夏らしなっていた。
幸一と昭三は、互いに目を合わせうなずき合いながら、ゆっくりとヨネを奥へと案内した。ヨネが立ち止まった。
そして、ぐるりと辺りを見渡してから、入って来た方向へ向き直り家の右隅を見てから左の隅をじっと見ていた。
それから、徐に左側へと進み壁の前に立った。
丁度、台所との壁ひとつ隔てた場所にあたる。その場に立った。
目を瞑り、一二分ほど、その場に立っていたが、「ここにしよう」といってその場に腰を下ろそうとした。キクが、慌てて座布団をその場に敷いた。その場は、真北に当たるところだ。
「これから、始めますが、右か左かはっきりと訊いてください。右でしょうか左でしょうかという訊き方はしないでください。短く訊いてください。仏が苦しんでいるようなら、止めてください」といった。
ヨネの右横、少し後ろには、幸一に昭三それに久米島、その後ろにキネに幸三が正座して座った。
「始めますか」といった。
幸一が、「おねがします」というと、ヨネは、数珠を持ち両手を目の前で組み、経文を唱え始めた。数珠の音が、静かな部屋の中に響き渡った。

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