亡魂-13 耳を壁に力一杯

家の周りに置いた道具類や資材は、既に片づけた。兎に角、音の出どこを確かめなければならない。
押入れの襖は、閉じてある。8月の初旬だ。
二時間ほど経ったであろうか、押入れの中が蒸し暑くなってきた。昭三は、風を入れるために襖を少し開けた。襖の隙間から、妻の幸枝に息子の進、娘の美津子に紀子が、頭を並べて寝ている。
暫くして、何か音がしたようだ。音の正体を見極めようとして、耳を壁に力一杯当てた。
ゴーとう音がする。車のエンジン音か。耳をすましその姿勢でじっと待った。
急に瞼が垂れた。今晩は、眠れない。
一心になって瞼を開けようとした。瞼が開かない。なぜか睡魔が容赦なく襲ってくる。首を左右に動かそうとしたが全く動かない。自然と壁から耳が離れた。首を項垂れ体が前傾姿勢になった。その格好で、昭三は、明け方まで眠り続けた。
気が付いた時は、朝の3時頃だった。出勤してきた新聞配達員の声で目を覚ました。
動こうとしたら、体が痛む。それに首も痛い。不自然な姿で眠ったからだろう。首を静かに持ち上げ少しの間そのままの姿勢でいた。
咄嗟に、駅まで新聞を取りに行かなければと思った。襖をあけて押入れから飛び出した。
ライトバンに飛び乗り駅へ行き、朝刊の束を受け取って戻ってきた。新聞配達員は、手持ちぶさたに新聞が来るのを待っていた。
それからは、いつもの生活に戻った。
昭三は、配達から戻ってきて、いつものように飯台の前に座り朝飯を口に掻き込んでいた。
そこへ幸一が顔を出した。

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