亡魂ー

幸一は、いつもより早めに目を覚ました。昨夜のことが気なって、布団から出ると真っ先に川村昭三に会いに行った。
昭三は、飯台の前にどっかと腰を下ろし、背を丸めながらせかせかと朝飯喰っている。
幸一に気が付き、ペコリと頭を下げた。
「昨夜は、どうでした・・・」
「いや、申し訳ないです・・・。すっかり眠ってしまって失敗でした」
決まりが悪いのか、申し訳なさそうに少し首をすくめていった。
「そうですか・・・」
「今夜も挑戦してみます・・・。恐らく、今夜は、大丈夫でしょ」
昭三は、そういいながら飯を口に掻き込んだ。
幸一は、笑みを作りながら小さく頷いた。
その夜のことである。いつものように家族が寝静まったころ、昭三は、そっと押入れの中へ入った。午後の10時を廻っていた。
昨夜と同じように茶箱に背を持たせ足を抱えて体制を整えた。壁に耳を付けた。ただ、(し~)という音が聴こえるだけだ。
幸一のいったことを思い出した。自分だけでなく子供の澄江も音を聞いたと。
(カタ、カタ)と鳴ったという。風の音だろうか、いや違うようだ。ここ最近、強い風が吹いた様子はない。なんだろうか。地震でもない。夜中に走る貨物列車か。それにしても、ここからは、少し距離がある。
自然に物と物がぶつかりあって鳴った音か。そんなことはあり得ない。

音のでる物は、何もないはずだ。

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