亡魂ー19口元が少し緩んだ

女は小首を傾げながら
「その辺は、婆ちゃんに訊いてみなければ、何とも言えません」
といった。
「そうですよね・・・」
幸一も当然だと思った。
「どちらからいらっしゃったのですか」
「隣の元川市からきました」
「ああ・・・、隣町ですか。近いですね」
「ええ、バスで16分ですから」
女の顔が和らぎ少し明るくなったようだ。
「こちらに連絡を取るには・・・」
「電話番号ですか。少しお待ちください」
女は、そういって奥へ入っていった。少ししてから、右手に紙切れを持って出てきた。そして、その紙切れを幸一に手渡した。
「助かります。明日にでも、こちらにお電話を入れますので、その旨、お帰りになったらヨネさんにお伝えください。もし、ご不在でしたら、私は、時々こちらへ来ることが、ありますので、その時は、寄らせて頂きます。それじゃ、今日は、これで失礼します」
「婆ちゃんが帰ってきたら、話しておきます」
女は、丁寧に頭を下げた。
「ああ、それから、ヨネさんは、いつも朝は何時ごろ起きられますか」
「そうですね。10時過ぎぐらいかしら・・・」
「そうですか、それじゃ、明日は、その時分に電話を入れますのでよろしくお願いします」
そういって二人は長谷川の家を出た。
歩きながら幸一が久米島にいった。
「引き受けてくれるだろうか・・・」
幸一は、心配そうな顔をしながら久米島にいった。
「病院へ通っているじゃないですか、大丈夫ですよ。必ず引き受けてくれますよ」
久米島が自信ありげにいった。
「そうかね・・・」
その言葉を聞いて少し安心したのか、幸一の口元が少し緩んだ。
二人が元川市に戻ったのは、昼過ぎだった。
翌日、早速、午前10時ごろになってから、幸一は、長谷川ヨネに電話を入れた。

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