溝鼠-199これなんだと思う [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

勝子が朝食の支度のために台所に立った。
台所の窓から真っ白な雪に覆われた公園が見える。アオダモの枝が、雪の重みでしなり今にも折れそうだ。この雪は、朝方に降ったのであろう。湿り気を帯びた雪は、重い。20センチはふったであろう。
「とうとう、冬の到来か・・・どりで朝方、寒いと思った」
トイレから出てきて道男がいった。
道男は、先ほど、ベランダから見える外の景色に気が付かなかった。
ベランダの前に立ち外の景色を見ている。鉛色の空からまた雪が降ってきそうだ。完全に冬空だ。
掌を窓ガラスに当てると凍てつくような外気の感触が伝わってきた。
車のタイヤを冬タイヤに取り換えなけらばと思った。
テレビの天気予報では、昼から天気になるという。
道男は、さっさと朝食を済ませると、ガレージへ行き車のタイヤの交換に取り掛かった。
一時間ほどしてガレージから戻った。
ダイニングテーブルの椅子に座り、勝子の出したインスタントコーヒーを音を立てながら啜りのみをしている。
二口ほど飲んでから
「おれ、パチンコへ行ってくる」
道男が、そういって出て行った。
あまりにも性急なので勝子は、言葉をかけられずにいた。
椰季子が二階から下りてきたのは、昼過ぎだった。
手にテッシュの箱を持っている。
ダイニングテーブルの上にポントその箱を放り出した。
「これなんだと思う」
「テッシュだろうさ」
「中身よ」
椰季子が、箱の中を開いて勝子に見せた。
勝子が、目を丸くした。

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溝鼠-198 額にうっすらと汗が [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

翌朝、道男が目を覚ますと居間の方からテレビの音が聞こえた。時計を見ると5時を少し回った頃だ。ベッドから抜け出して居間に行くと勝子が、新聞を広げ目を通していた。
「どうした。嫌に今朝は早いんだな」
「なんか、眠れなかったの」
道男がソフアーに腰を下ろし大きな欠伸をした。
「椰季子、何時ごろ帰ってきたんだ」
「お父さんが、寝てから間もなく」
道男がソフアーの上にゴロンと横になった。
「何十年振りかな、夢を見ないで、こんなに熟睡したのは」
「疲れてたんだわ。今まで、婆ちゃんのこともあったしね」
道男は、答えずじっと天井を見上げている。
「婆ちゃんを施設に入れて良かったね。後は、何の心配もいらないっしょ」
「お前、知らないか。婆さん。財産をどこに仕舞ったのか」
突然いわれた勝子は、一瞬黙り込んだ。
道男が、仰向けの姿勢で頭を持ち上げ勝子の顔を見た。
勝子の目と道男の目が合った。
勝子が、反射的に首を小さく横に振った。
「そうか、知るわけないな」
「婆ちゃん、お金まだあるのかい」
「あるさ。俺の計算じゃ。あと一千万円はある筈だ」
勝子の胸が、早鐘のように打っている。
佳代子の顔が目に浮かんだ。500万円は佳代子が持って行った筈だ。
「そんなに持ってないしょ。せいぜいあっても二三百万円じゃないかい」
「いや、一千万円はある」
勝子が困った。3百万円は佳代子が、この家の中のどこかに置いて行ったはずだ。
「それじゃ、その二三百万円はどこへにあるんだ」
「私は知らないよ」
勝子の額にうっすらと汗がにじみ出ている。

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