溝鼠ー201 テーブルの上にある200万円を [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

「ついて来たって、犬ころじゃあるまいし。今どこにいるのさ」
「ホテル」
「何処のホテルさ・・・」
「駅前のビジネスホテル」
「ホテルに置いたままで、よくで平気でいられるね」
勝子が椰季子の顔を繁々と見詰めている。
「だって、お金がないんだもの」
まるで他人事のようだ。
少し間をおいてから、勝子が徐にいった。
「お金がないっていうけどさ、あんたが貸してやったらどうなのさ」
「私もないの」
驚いたのか勝子が、茶菓子鉢へ伸ばした手を引っ込めた。
「あんたもないのかい」
椰季子が頷いた。
「だから、このお金貸してほしいの。婆ちゃんのお金でしょ。婆ちゃんの月々の支払なんって微々たるもんでしょ」
「そんなこと知らないよ。入ったばかりなんだから」
「頼むから。貸して。必ず返すから」
椰季子が、テーブルに額をつけるようにして頭を下げている。
「お父さんに相談してみたらどうなのさ」
「良いって言うわけないしょ」
「あんたさ、このお金なかったらどうするつもりだったのさ」
「お父さんに頼むつもりだったよ」
勝子が呆れたのか何もいわなくなった。

テーブルの上に置いた茶菓子鉢から殻付きピーナッツを一個摘み、それを口へ持って行き前歯で力一杯噛んだ。
「ぼりっ」と鈍い音が鳴った。
殻ごと中の豆まで粉々に潰れた。
勝子が、そのピーナッツを口から吐き出した。
椰季子が、茶菓子鉢に手を突っ込み二三個取り出し一個を口に入れ上手に殻を割って美味しそうに食べている。
勝子が、椅子から立ち上がり台所へ行きポリ袋を二枚持ってきた。
テーブルの上にある200万円を一枚のポロ袋に入れ、もう一枚の袋に100万円を入れた。
それを椰季子の目の前に置いた。

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