溝鼠-239涙が込み上げてきた

杏子が、ちょっと小首を傾げた。
「まあ、小林さんのことは、私のほうで診ていますのでご安心ください」
机の上の電話が鳴った。諏訪は、二言三言話して電話を切ると
「そじゃ、私は、これで・・・」
諏訪は、部屋を出て行った。
二人も諏訪に続いて部屋を出た。諏訪の姿が既にエレバーターの近くまで行っていた。
「何か悪かったようね」
杏子が気まずそうな顔をしている。
「何が・・・」
「訊かなきゃよかったわね」
杏子が浮かない顔をしている。
「もう、言ってしまっことだ。仕方がないだろう」
定男も同じ様子だった。ただ、なぜか道男が哀れでならなかった。
二人は、部屋に戻ると、道男が目を瞑っていた。
その寝顔を見ているうちに、涙が込上げてきた。
(此奴も馬鹿な奴だ)とそう思った。
「さぁ、寝ているから、帰るか」
気を取り戻そうとした。
「勝子さんを待たないの」
「来るかどうかわかんらないだろう」
語気が強かった。
「それもそうね。私たちが来たことを詰め所に話して帰ろうか」
杏子は、定男の気持ちが手に取るように分かった。
二人は、心の中にもやもやしたものが残り気持ちがすっきりしなかった。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。