亡魂ー1 雨上がり

目を覚ますと、天井付けのカーテンの隙間から、明かりが、静かに入っている。
その明かりは、深い青色で、真っ白な天井にぴったりと張りついている。しばらく、その様子をじっと見ていると徐々に色を変え始めた。まるで生きているかのようだ。だが、その明かりも時間が経つにつれて、深い青色から白へそして普段の黄色になった。
昨夜、激しく降り続いていた雨も上がったようだ。
幸三は、この雨が、気掛かりで、昨夜は、何度も目を覚ました。
ここ数年、近くの権瓶川が、毎年氾濫するようになり、床下に水が入るようになった。
幸三は、ベッドから出てカーテンを開けた。窓の下に目を遣った。ところどころ窪んだ地面に雨水が溜まっている。床下にまで来ていないようだ。
空を見上げると雲間から青空が顔を出している。
(今日は、晴れだ)
幸三は、安堵の表情を浮かべ、トイレに立った。その途中で縁側から庭を見た。
ライラックの花が、雨に洗われたせいだろうか、いつもより鮮やかに見える。
つい先日まで、硬い冬芽を付けていたと思ったら、いつの間にか、芽吹き、今は満開である。

幸三が、縁側にどっかと腰を下ろし目の前に新聞紙を広げ、そこで足の爪を切っている。
「あの二人は、行けたのかね」
背後から声がした。母のキネである。
「二人って・・・」
「ほら、あの二人さ・・・」
キネがくけ台に布の端を留め、左手で布を引っ張りながら、右手を動かしている。
「だから、あの二人って誰だ・・・」
「お父さんが生きている頃にさ、ほら、あったでしょ」
「何のことだ・・・」
「私も、よくは分からないけどね」
キネが、少し残念そうにいった。
幸三が、体を半分ほど回してキネの顔を見た。
最近、キネの様子が少し変だ。テレビを見ていても、そのテレビの内容と全く関係のないことを突然いって一人で笑っているときがある。
それで、「どうした」と訊き返し、よくよく聞いてみると全く関係のないことを言っている訳でもなさそうだ。それで、最近はそのままにしている。
幸三が首を傾げると
「ほら、あんたがさ、たしか10歳ぐらいだったよ」
幸三が思いだせないでいる。
「俺が10歳のころか・・・」

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