溝鼠ー229失敗したと [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

道子が光子の袖を引いた。
「談話室へ行こう」
道子が小さな声でいってから意味ありげに含み笑いをした。
それを横で見ていた勝子が光子にいった。
「少し休んでおいで。あんたは、今朝、夜行列車で着いたばかりなんだから」
光子は、うっかり朱美と口に出してしまい心の中で後悔していた。
「そうだね。そうしようか。お父さん、少し休んでくるから」
そう道男にいって、二人は、部屋を出て先ほどの談話室へ行った。
相変わらず激しく降る雨が、風に乗り窓にあたり大きな音を立てている。
「止まないね。この雨。姉さん釧路から持ってきたんじゃないの」
道子が光子の方をみていった。
「そうかもしれない。釧路も降ってたから」
光子が窓から見える大降りの雨を見ながらいった。
二人は、丸いテーブルを囲んで座った」
「あんた、さっき含み笑いをしてたでしょ」
光子が、訊いた。
「だって、可笑しいだもん。朱美さんといった後に、突然、私が渉といって話を変えたでしょ。それでも、何となく話が繋がったから」
「ああ、私もあの時、失敗したと思ったの。朱美さんって、お父さん、聴こえた筈だよね」
「聴こえたと思う。姉さんの声は、大きいから」
「まあいいわ、本人は、話せないんだから」
道子が、上目でちらりと光子の顔を見た。
「もう、この話は、終わり」
光子が、後悔しているのが分かる。

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