溝鼠ー205椅子のきしむ音が [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

勝子が、テレビのボリュウームを下げた。
「彼奴に電話してやるか」
てっきり眠っているものと思っていた道男がいった。
「お兄さんに・・・」
勝子が、テレビのボリュームから手を離し振り向き際にいった。
「ああ」
道男が天井を見上げながら何か考えている。
その時、二階で音がした。音は一瞬だった。
「今、二階で音がしたな」
「ああ、椰季子が何か落としたんだろうさ」
勝子が、ぎょろ目で道男の顔を見た。
あの音は、椰季子が、収納キャビネットの中の鍋を落とした音だ。椰季子がモトの部屋にいる。
(どうしようか)
道男が天井を見上げていたが
「電話は、今度にするか・・・」
道男は、未だ一千万円を探し出せないでいる。彼奴には、この一千万円を見つけてから連絡しても遅くはないと思った。
暫くしてからソフアーから道男が立ち上がった。
「婆さんの部屋でへ探し物してくる」
勝子は、困った。今行かれては困る。椰季子が部屋の中にいる。何とか止めなければと思った。
その時、パタパタと二階から下りてくる足音がした。
勝子が、ほっと胸をなでおろし、いつも座っているキッチンテーブルの椅子に座った。
全体重を預けたせいか、ぎしぎしと椅子の軋む音が普段よりも大きく鳴った。
道男が部屋を出て行こうとした時、ドアが開いて椰季子が姿を現した。
「なんだ、外出するのか」
椰季子が、首にキャメルのストールを掛け、左手にコートを持っている。
足元には、ボストンバッグが置いてある。
「どこかへ出かけるのか・・・」
「うん、ちょっと出かけてくる」
道男は、それ以上のことを訊かなかった。
道男が二階へ上がり、椰季子が玄関から出て行ことした時、一通の封書が
郵便受けに入っているのを椰季子が見つけた。

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