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休みます

誠に申し訳ありません。8月20日から9月10日まで休ませて頂きます。
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亡魂ー39 供養してあげたら

「浄霊している時、ヨネさんは、少し前屈みになり、拳を強く握り占め、体が小刻みに震わせておりました。そして、顔には、苦悶の表情を浮かべ、何か悔しいという顔をしておりました。ご存じですか」
ヨネが、幸一を真っ直ぐにみて、静かに首を横に振った。
「ご存じない・・・そうですか」
ヨネが口を開いた。
「恐らく、生前、仏は、何か非常に悔しいことがあって、それが、あの世に行っても、未だ整理がつかないで苦しんでいるのでしょう。供養をしてやることです」
「供養してあげたら、収まるでしょうか」
「毎日、供養してやることです」
「それで、仏の悔しさは、収まるのでしょうか」
「毎日、忘れずに、心を込めて、水、御仏飯を供えることです」
「それで、解決するのでしょうか」
「ある程度は・・・」
「原因を突き止める必要が、あるのではないでしょうか」
ヨネが、首を横に振った。
「それは、難しい」
「そうですか。何とか霊から聞きだすことは、出来ないのでしょうか」
長谷川ヨネは、首を何度も横に振りながら、無理だといった。

幸一は、これ以上、ヨネさんに問いただしても無理だと思った。
「いや、お手数をお掛けして申し訳ありません。大変、参考になりました」
そういって、幸一は、ヨネの家を後にした。
帰って来る途中、バイクに乗りながら考えた。国井芳次郎に、仏の生涯について訊いてみる必要があるだろうと。

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亡魂ー38 寄る年波には、勝てません

「お元気ですか・・・」
ヨネが頷いた。
「最近は、体が思うように動かなくて、それで、こうやって、炬燵に入っております」
幸一は、持参した菓子折をヨネの前に出すと、恐縮したのか、こたつの上に敷いた天板に、頭を付けそうにしながら下げた。
そして合掌した。
「そんな、大したものじゃありませんから」幸一が声を出して笑った。
「この齢になって、人さまから物を貰うって何年振りかです」
「でも、元気そうで何よりです」
そこへ、女が茶を運んできた。
「やはり、寄る年波には、勝てませんね。だんだんと、耳も遠くなり、体は固くなり、歩くのが困難になりました
「病院へは・・・」
「ええ、通っていますが、だんだんと食が細り、それで体が弱り動作も以前より緩慢になりました。食べさせようと思うのですが、口に運びませんの」女は、そういって、ヨネの方をちらっと見た。
ヨネは、眠たいのか目を細め、うつらうつらしている。まるで、今にも寝入りそうだ。
「ヨネさん、ヨネさん」幸一が大きな声で話し掛けた。
ヨネが、目を開けた。
「実は、今日伺ったのは、この間、浄霊してもらったときに、ヨネさんの体に、普段と違う表情が出ていたものですから、そのことについて、訊きたくて伺いました」
ヨネが、頷いた。

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亡魂ー37頬がこけ、目が窪み

幸一は、久米島に任せておくのも気の毒になった。自ら長谷川ヨネを一度訪ねて、浄霊した時のあの苦悶の表情について尋ねてみようと思っていた。あれから一か月を過ぎた頃、幸一は、上元川へ取材に行かなければならなくなった。地元での取材が終わり、その足で長谷川ヨネの家を訪ねた。

家の前に立つと、一か月前と違っていたのは、テルテル坊主が、新しくなっていたことだった。大きさは、前のと同じだが、真新しい真っ白な布きれで作られてあった。
引き違い戸を静かに開けた。
「御免ください」と二度ほど声を掛けると、あの女が出てきた。
幸一の顔を見るなり
「あら、お差ぶりです。今日は何か・・・」と少し怪訝そうな顔をしながらいった。
「いえちょっと・・・今日は取材でこの町へ:きたものですから、先日のお礼にと、寄らせて頂きました」
「そうですか、婆ちゃんは、今日、居りますよ」
「そうですか、ちょっと尋ねたいことがありまして・・・」
「ああ、いいと思いますよ。ちょっと待ってください」
女はそう言って奥へ引っ込んだ。少しすると女が出て来て
「どうぞ、お上がり下さい」
そういって、幸一の足元へスリッパを置いた。
古い家なのか、歩くと廊下が少し軋む。通されたところは、居間である。ヨネが、夏場だというのに炬燵に入っていた。
「先日は、有難うございました。お元気そうで・・・」
幸一が、炬燵の前に座り笑顔で挨拶をすると、ヨネが炬燵から出て座り直して、頭を下げた。
「今日は、どのようなご用件で・・・」
ヨネも笑顔で答えた。先日のヨネの態度とは違っていた。
「取材がてらに、ちょっと寄らせて貰いました」
長谷川ヨネは、前より少し肩が落ち、頬がこけ、目が窪み、そのためか、目が大きくなり、その目をぎょろつかせながら幸一をみた。顔には、皺が多くなり、それに、体全体が小さくなったように思えた。

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亡魂ー37既に過去に起きた出来事

暫しの間、ぼうっとしながら、見るとはなしに外を走る車を眺めていた。これは、そう簡単には、事は進まない。じっくりと腰を据えて、初めから考え直さなければならないと思った。それには、国井芳次郎に、もう少し詳細に話を聞かなければならない。
まず、国井芳次郎に、知っている事をすべて話してもらうことだと思った。既に過去に起きた出来事だ。警察の現場検証も終わり事件は、終結している。それを蒸し返すようで、気が引ける。
縁もゆかりもない人間が、根掘り葉掘りと過去の出来事を掘り起こす。果たして、これまでのことを、話してくれるだろうか、
久米島は、思った。
(それにしても、俺は、国井芳次郎に他人の家庭について、あれこれと訊く権利があるのだろうか。
何もないのだ。ただ、辛うじて、根拠といえるかどうか分からないが、霊媒師の長谷川ヨネが霊を下ろした時の、その様子だけである。根拠が不確かである。)
国井芳次郎には、長谷川ヨネのあの恨みというか憎悪に満ちた顔や表情を説明し、納得してもらわなければならない。否、納得させなければならない。そう思った。
それにしても、最初から、上条恒子の話を持ち出しては拙いだろう。そう思った。
好きなことは、何か。確か支局長が最初に国井の家を訪れたとき、国井は釣り竿の手入れをしていたといっていた。

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亡魂ー35行き詰まった

久米島が、少し困ったような顔をしている。
「久米島君はそう思わないか・・・」
「警察の方で検証しているでしょうね。確か、雪が融け次第、再度現場検証を行うといっていましたよね」
「そうしなければ、問題が解決しないと思うんだが」
「もう少し調べてみます」
「仕事に支障がない程度に、じっくりと時間をかけて調べてみてよ」
久米島自身も中途半端で終わらせたくなかった。
久米島は、これはいい加減な気持ちじゃできないと思った。じっくりと時間をかけ、腰を落ち着けて調べてみようと思った。
久米島は、仕事の合間にそれとなく、調べ始めた。
ある日、警察へ行く前に、道央新聞にその後の経過について記事にしたことがなかったか訊いてみた。
スクラップブックを調べた結果、雪が融けた4月に現場での再調査が実施された記事が載ったとあった。早速、コピーして送るといって来た。
コピーが届いたのは、翌日だった。
早速、封を開けて読んでみた。
「今年の二月に仏坂峠で起きた自動車転落事故について、去る4月3日に現場検証が行われたが、新しい物的証拠は何も見つからなかった。ガードレールの損傷面から見て、当初通りスリップによるものと断定された」と載っていた。
記事から見るとこれで、解決している。
「やはり、初めの報道通りだったのか・・・」
久米島は、行き詰まった。

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亡魂-34ひょろりとした体で

「この男性は・・・」久米島は、写真の中の男を指さして訊いた。
「それが、運転していた金一です」
男は、女の横で眉間に皺を寄せて立っている。ひょろりとした体で、顔は少し面長で色が白く、どこか神経質にみえる。
「この方が、甥御さんですか」
「そうです。その横が上条恒子に子供の勝治です」
「恒子さんは、39歳で亡くなったとか・・・」
国井芳次郎が、頷いた。
女は、小柄で、色が白くふっくらとした顔で、それに目が大きく少し童顔である。
「まだまだ、これからという時に、事故に遭い実に残念です」
「お気の毒です」
「この写真を見る度に、死んだ恒子は、どんなに悔しかったかと思うと・・・」
「・・・」
久米島は、頷いていた。
久米島は、それ以上のことを何も訊けなかった。話が少し湿っぽくなり早々に帰ってきた。
戻ってくると支局長が取材から戻ってきたところだった。
「ご苦労さん」支局長が久米島に声を掛けた。
「行ってきました」
支局長は、どうだったか話を早く訊きたいといった顔をしている。早速、久米島が国井芳次郎との話の内容を説明した。
聞いていた支局長は、頷きながら聞いていたが聞き終わってからいった。
「やっぱり、視界不良で事故に遭ったのかね」
「ん、そういうことになりますね」
「従弟の方は、小さい頃から、この町で育ったのだよね」
「そうだと思います」
「そうであれば、峠の状況は、良く知っている筈だが・・・」
「そういうことですよね」
「知っているのに、なぜ、無理して峠越えをしたのか、そのあたりが良く分からないね」
「本人が亡くなっているので、調べるわけにいきませんよね」
「やはり、吹雪による視界不良で、それでスリップしたか、何かの調子でハンドルを取られて運転を誤り崖下に転落したものか・・・」
幸一は、そういいながら、長谷川ヨネの苦悩した顔を思いだしていた。

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亡魂-33金箔を貼った 

「隧道を抜けてからの天候も当然気象庁から、発表されています。地元の者は、峠を越えて向こう側に入ると、吹雪になっていることを知っておりますので、常に隣町と連絡し合っております。状況によっては、その日は、峠越えを控え、晴れるまで待ちます」
「すると、一時、人や車両などが、歌見川町から元川市に入ることが出来なくなる訳ですか」
「そうです。何せ、猛吹雪なので、どんな状況に陥るか分かりませんので・・・」
「何日も続くのですか」
「そうですね。天候によりますが、長くて二日程度でしょうか。余所者は、地元のことをよく知らないので、警報が出ていても、無理して峠越えをするのです」
「金一さんも、それで峠越えをしたのでしょうか」

「甘く見たのか、良くは知らなかったのか、その辺は、分かりません」
久米島の座っている場所から次の間が見えた。仏壇が見える。
「ああ、仏壇が置いてありますね」
「ええ、支局長さんから話を聞いたので、早速、荷を解き、この場所に祀りました」
「ちょっと、見てもいいですか」
「どうぞ、未だきちんと祀っておりませんが」
久米島は、立ち上がって次の間に行った。金仏壇である。全体に細かい細工が施されて、その前に立つと一段と仏壇が際立って見えた。
良い匂いがする。線香の匂ではない。檜の匂か。金箔を貼った堂々とした仏壇の姿に圧倒された。仏壇の中央には、湯吞椀や仏飯器が上がっており、下段には、写真が飾ってあった。
「写真をちょっと拝見させて貰えませんか」
久米島が国井芳次郎に訊いた。
「ああ、どうぞ」
国井が仏壇から写真を取り出して見せてくれた。
偶然なのかどうか分からないが、事故で亡くなった3人が写真の中に納まっていた。

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亡魂ー32国井芳次郎は、頷いた

久米島は、ポケットからハンカチを取り出して顔を拭った。簡単に挨拶をしてから、本題に入った。久米島は、新聞の切り抜きを出して、読み上げた。
「新聞報道によると、去る二月二六日午後三時頃、歌見川町から元川市に入る仏坂峠で崖下に、車が転落炎上し運転手のほか同乗していた二人が死亡
事故現場からは、車の残骸と三人の焼死体が発見された。原因は、猛吹雪で視界不良による運転ミスか、現在、調査中。と、このように新聞には、報道されているのですが、その後、調査は実施されたのでしょうか、実施されたなら、その結果は、どうなったのでしょうか」
「再調査は、実施されました。事故が起きた日から二日後、天候が回復しまして、再調査が実施されました。しかし、雪が深いため、思うように調べられず、その時は、これといった目新しいことは、何も発見されませんでした。それで雪が融けた4月の中旬に、再度、調査したらしいです。しかし、何も新しい発見は、なかったそうです」
久米島は、国井芳次郎の顔をじっと見据えながら聞いていた。
「やはり、猛吹雪で視界不良になり、それでハンドル操作を誤り崖下へ落ちたのでしょうかね」
「そうだと思います。何せその日は、典型的な北海道の冬型の天気でして、大陸からくる乾いた空気が入って大雪を降らせたそうです」
「運転していた方は、お幾つですか・・・」
「大学の二年ですから、二十歳ですか」
「免許は、いつ頃、取ったのでしょうか」
「高校を卒業して間もなくといっていました」
「それじゃ、まだ、日が浅いですね」
国井芳次郎が、頷いた。
「予報では、当日、天気が荒れるということを、発表していなかったのでしょうか」
「予報は、出ていました。しかし、いつもの程度だろうと、軽く判断したのでは、ないでしょうか」
「なぜ、無理して峠越えをしたのでしょうか。途中から戻ってこられたのじゃないですか」
「あの峠は、難しい峠でして、こちらから行くときは、晴れているのです。しかし、峠を越えて、一箪向こう側に入ったら天候が急変し吹雪いている時があるのです」
「向こう側の状況を知る方法はないのですか」

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亡魂ー31 剣のある言い方

翌日、久米島は、早速、調査に取り掛かろうと思ったが、どこから手を付けてよいものか分からなかった。直接、警察へ行って調べるか、それとも、国川芳次郎の家を訪ねて、もう少し話を訊いてからにした方がいいものか迷った。
支局長は、既に歌見川町へ取材に出掛けた。
暫くの間、窓から国道を走る車を漠然と眺めていた。
そう、難しく考えることないだろう。取っ掛かりやすいところから、始めようと思った。
その結果、やはり、直接、国川芳次郎から話を聞き、そのうえで、警察へ行き調べてみようと思った。
早速、久米島は、国川芳次郎の家を訪ねた。女が出てきた。
怪訝な顔をしながら
「何でしょうか・・・」
少し剣のある言い方である。
「突然ですが、国川芳次郎さんは、いらっしゃいますか。私、こういうものです」
久米島は、そういって名刺を差し出した。女の顔が、ぱっと明るくなった。
「ああ、ちょっと待ってください」女の声が、突然変わった。
女は奥へ引っ込み、少ししてから、また出てきた。
「あの、どんなご用件でいらっしゃったのかとのことですが」
女の態度が、先ほどと違いがらりと変わっている。
「ああ、実は、昨日、うちの支局長の工藤がこちらに伺ったはずですが、その件で、もう少しお聞きしたことがあるのですが」
「ああ、そうですか、少しお待ちください」
そういって、また奥へ引っ込んだ。
家の中がひっそりとしている。物音ひとつしない。国道の裏側だ。少しは、車の音が聞こえて来てもよさそうなものだが、それがない。
廊下をパタパタと音を立てながら足早にこちらへやってくる音がした。
先ほどの女である。
「お上がり下さいとのことです」
久米島は、案内されるがままに女についていった。
この家の外観は、新築したばかりのように見えたが、中は少し古めかしく、壁や板の間の処処に傷がついていた。
案内されたところは、四畳半だった。昨日、支局長が話していた場所だと久米島は思った。

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