溝鼠ー233少しさびしい [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

「今度は、いつ会えるんだろうかね」
勝子が道男の顔を見ながらいった。
「来年の春に、こっちへ戻るかもしれないよ」
夫の康夫が地方へ出たのは、36歳の時である。それから道内の支店を転々と歩きと既に21年が経っていた。
「そろそろ、康夫さんも定年だろさ」
「そう。早いもんだね。地方歩きで終わるかと思ったら、本社へ戻されるようなの」
「よかったじゃない。そうなったら嬉しいね」
勝子が光子の顔見ながら微笑んだ。
「そうなったら、私も安心だわ」
道子が勝子の傍でいった。
「こっちへ戻ったからって、そうそう、お父さんの面倒は看れないよ。。たまには
来てみるけどさ」
「でも、あんたが近くにいるだけで何となく心強いよ」
勝子がいった。「
そう頼られても困るよ。私たちだって年なんだから」
「わかっているけどさ、なんとなく安心なんだよ」
道子は、勝子が自分より姉の光子を頼りにしているのかと思うと少しさびしい気持ちになった。
道子は、夫と二人で豆腐屋を営んでいる。定年退職などない。自由業である。何も保証がない。体を壊すと明日にも生活は、できなくなる。
そんなことを考えると自分のほうが、早く帰らなければと道子は思った。
「私も明日、帰るわ。家では、お父さん一人で朝の早くから起きて仕事をしているから。兎に角、命に別状なかったし、よかったしょ」
道子がいった。
道子は、諏訪道一のことなど忘れてしまった。早く峰下町の「すず屋」へ戻りたかった。
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