溝鼠ー224 まるで合わせ鏡のよう [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

勝子が寝室にへ入って行くのを見て光子がその後を追った。
それから間もなくして、ギシギシと何か擦れる音が聞こえた。恐らくタンスの抽斗の音だろう。道子がその音を聞きながら居間でテレビを観ていた。
暫くしてから二人が部屋から出てきた。光子の上下着ているものが変わっていた。
「全部変えちゃったの。どう」
勝子が普段着ているカーキ色のセーターと紺のジーパンを履いている。
「少し太めだけどね。いいでしょ」
光子がくるりと回って見せた。
道子がその姿を見て
「体形が同じだから、後ろ姿なんか、お母さん、そっくり。間違いそう」
光子があまりにも勝子に似ているので道子は苦笑いをした。
「親に似ぬ子は鬼子っていうでしょ」
そういって、光子があんただってそうだといった目つきで道子を見た。
道子は、どちらかというと少し細めで、四人姉妹の中で一番道男に似ている。佳代子は、勝子の若い頃にそっくりである。
「まるで合わせ鏡のよう」
道子がいたく感心したような顔で小さく頷いた。
光子が左手に汗でよれよれになった下着をぶら下げている。
「それ、洗濯機の中へ入れといて」
勝子にいわれて光子が風呂場へ行った。
風呂場の近くに古めかしい洗濯機が置いてあった。その洗濯機の蓋を開け下着をその中へ放り込んだ。
「随分、年代ものの洗濯機を使ってるね」
この洗濯機は、確か光子が成人式の時に買った物だ。それを未だに使っている。
「まだ、動くもんだからさ、それで使ってるの」
「物持ちがいいんだ」
「それよりも、早く病院へ行かなきゃ。お父さん首を長くして待ってるじゃない」
ベランダから外を眺めていた道子が振り向き様に二人にいった。
三人は、そそくさと身支度を整え外へ出て国道まで歩き車を拾って病院へ向かった。
車の中で道子がいった。
「そうそう、主治医がね。お父さんの声にそっくりなの。驚いちゃった」
「声ぐらい似た人、世の中に沢山いるだろうさ」
「それだけじゃないの。背格好も後ろ姿もそっくりなの」
光子がニヤニヤ笑いながら、そんな馬鹿な事があるわけないといった顔をしている。
「これから、その先生に会えるよ。きっと驚くから」
「お母さん、そうなの」
勝子が、首を大きく縦に振った。

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