溝鼠ー237亡くなりました [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

定男と杏子が、軽く頭を下げると医者もぺこんと頭を下げた。
看護師が
「ご親族の方ですか」と訊いた。
「はい」と杏子が答えた。
医者が、道男の右腕を少し持ち上げ、次に左の腕をもち上げた。
「小林さん、痛みますか」
道男が首を微かに横に動かした。
医者が頷いた。
看護師が、道男のはだけた胸元を直している。
杏子が訊いた。
「あの~、誠に失礼ですが、先生のお母様は、もしかしたら朱美さんとおっしゃいませんか」
諏訪が振り返った。
「そうです」
諏訪は、驚いた様子がなく平然としていた。
定男が微笑みながら
「やっぱりそうですか。道男の兄の定男と申します。プレートを見ましたら、先生のお名前に見覚えがありましたで・・・」
「知っています。光子さんから聞いております」
「そうですか、光子を以前からご存じで・・・」
「ええ、叔母からよく、話は聞いておりました」
「叔母というと・・・」
「母の妹の邦子です」
「ああ、そうでしたか、それでお母さんは、ご健在で・・・」
「亡くなりました。私の小さい頃に・・・」
「亡くなった・・・そうですか・・・」
「ここでは、なんですから、相談室で話しましょうか・・・」
看護師が、
「私がご案内します」
と言って部屋を出て行った。

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