亡魂ー2 ライラックの咲くころに

「そう、あんたが、確か、小学校の5年生だったよ」
「なんだったかな・・・」
幸三が、目を細め遠くを見るような眼差しで庭のライラックの木に目を遣った。
枝には、薄紫色の花が、まるでたわわに実ったブドウの房のようにぶら下がり、それが今にも枝から落ちそうになっている。
少し開いた掃き出し窓から甘い香りが、ほのかに漂ってくる。
幸三は、大きなくしゃみを一つした。
「くそ、いやな季節だ」
朝夕の寒暖の差は、幾分和らいだが、それでも日によって風の冷たさが違う。
幸三は、毎年ライラックの花が咲くころになると決まって、鼻炎に掛かる。
これまで、風邪だと思い、市販の感冒薬を買って服用していたが、一向に効かなかった。熱もなく、ただ、くしゃみと鼻水が止まらず、それに涙が出る。それで、ある日、病院へ行って診てもらったら、花粉症だといわれた。それも白樺花粉だといわれた。
幸三は、そういわれてもピンとこなかった。この症状は、毎年、決まってライラックの花が咲くころに始まる。
それで、これは、ライラックのあの強い匂のせいだと思っていた。
ところが、白樺の花粉だという。そういわれても、幸三は今一つしっくりとこなかった。
いや、この症状は、ライラックのせいだ。(そうでなければ、寒暖の差によるものだ)と勝手に自分で思っている。
ライラックは、死んだ父が植えたもので、既に10年以上は経っている。

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