亡魂ー10 パタ、パタと音がした

名前は、久米島進一といって、北海道の宗谷支庁管内の出身である。
一見、大雑把な性格の持ち主ように見えるが、細かいところにもよく気が付く男である。
その日に書いた原稿は、毎日、午後5時20分の列車に乗せて本社へ送る。それまでに、原稿を書き上げなければならない。
原稿の締め切り時間が迫り、思うように書けないと額と鼻の頭にうっすらと汗を掻き、それをハンカチで頻りに拭いている。
左手の一指し指と中指で挟んだたばこを頻りに口に運んでいる。
幸一は、新しい環境にも慣れ、三か町村をバイクに乗っての取材で忙しい。
キネも、ほとんど細かいものは、隣に移動させた。あとは、大きなタンスなどが残っている。
ある日のことだ。澄子がキネに
「これから、毎晩、隣の家で寝るの」と訊いた。
「そうだよ」とキネが答えると澄子が嫌な顔をした。
「どうしたの」と訊くと、夜になると
「カタカタするから、嫌だ」という。
「大丈夫。家族一緒だから心配ないよ」といったが、まだ、どことなく不安げな顔をしている。
それから、一週間ほどしてからのことだった。隣の家で幸一と幸三の二人が、寝ているので、自分も寝てみたくなったのかキクに
「私も隣で寝てみたい」といった。
キクは、澄子がいうのだからと思い、幸一に話をしたところ、本人がいうのだからいいだろうということになり、その夜泊まることになった。
その夜、3人が寝付いたころ、
「カタカタ、カタカタ」と音がした。
幸一は、心配ないと思いながらも、緊張しながら寝ていたせいか、その音に直ぐに気が付いた。
確かに聞こえる。辺りは、静けさで静まり帰っている。道路を走る車の音もしない。それなのに「カタカタ」と音がする。これは、少し違うようだと幸一は思った。
その音も耳元ではっきりと聞こえるのだ。
澄子が、幸一の布団に入ってきて、幸一の右腕にしがみ付いた。
幸一は、澄子をそっと抱き寄せた。幸三は、静かに眠っている。
少ししてから、「パタ、パタ」と音がした。これまで聞いたことがない音だった。





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