溝鼠ー208今、この手紙をだしら [現代小説ー灯篭花(ほおずき)]

居間に入った道男が、ソフアーに腰を下ろし横になった。天井を見上げている。
勝子が、そっと近づきローテーブルの上に100万円を置いた。
それをチラリと見て不思議そうに首を傾げた。
「こんなもんかな、婆さんの残した財産は。俺の計算じゃ、1千万は、ある筈なのに」
勝子が、キッチンテーブルの前に立って、道男の様子を窺っている。
「一千万円、見たことあるのかい」
道男が首を小さく横に振った。
「単なる推測でしょ」
道男は、黙っている。
「いくら探したって、それしか出てこないんだもの。しょうがないっしょ」
「そうかな・・・」
道男が、まだ、あきらめ切れないのかソフアーに横になったまま人差し指を宙に向けモトの部屋の中を思い描きながら点検が終わった箇所を一つ一つ頭の中で確認している。
勝子が臍の辺りからポロチャツの中に手を突っ込み佳代子の手紙を出そうかどうしようか迷っている。
この手紙を今出したらどうなるだろうか。恐らく怒り心頭に発し何をしでかすかわからない。
ポロシャツの中で確りと握っていた手紙を胸のあたりまで押し込んだ。
道男が、サイドボードの扉を開け中から三分の一程度残っているウイスキーの瓶を取り出してローテーブルの上に置いた。ぃ
「椰季子、どこへ出かけたんだ」
「友だちのところじゃない」
「今晩、帰ってくるのか」
「帰って来るんじゃない。何も言ってなかっから」
その夜、道男は、酒を飲んで早めに眠ってしまった。
勝子は、午前0時までテレビを見ながら椰季子の帰りを待ったが帰ってこなかった。
翌朝、8時を回ったころ電話があった。
椰季子からだった。
「お母さん、ごめん、今、東京にいるの」

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